【第118回・2014年5月10日(土)】 「ダイヤモンドは永遠に」

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白藤純嗣さん@64期( 福井工業大学 元教授)

◎略歴 大阪大学大学院で電気工学を専攻。修士課程を修了の後、日立製作所中央研究所 で研究員を勤める。その後、大阪大学に戻り、工学部電気工学科助手、 講師、 助教授を経て教授に。主に化合物半導体の作製と物性について研究した。  英国シェフィールド大学電気電子工学科シニア・リサーチ・フェロー。平成9 年に大阪大学を定年退官後、福井工業大学で教授、平成20年に退職。

◎講演サマリー ダイヤモンド…宝石にまつわる各種のエピソード 天然ダイヤモンドの産出と採掘 天然ダイヤモンド vs 人造(偽)ダイヤモンド 合成ダイヤモンドのつくり方 ダイヤモンドの性質 ダイヤモンドの工業応用 etc.


◎白藤先生を囲んで

◎同(64期)


reporter:足立一郎(64期)
 風は強いが五月晴れの5月10日(土)、六稜会館3Fホールで64期のわが誇るべき同期生・白藤純嗣大阪大名誉教授のトークがあった。演題が007の「ダイヤモンドは永遠に」。チラシの片隅に極小の文字で「映画鑑賞会ではありません…」と書いてある。
 参加者は上田成之助・新六稜同窓会会長(80期にしては古風なお名前かなと思うが)はじめ数十名。もちろん64期の応援団も駆けつけている。同期の栗岡豊君の要領を得た講師紹介の後、話が始まった。

 聴いていると知らないことばかり。恥ずかしながらダイヤモンドが元素の周期表6番目の炭素[C]でできていると始めて知った。
 ダイヤが最高の宝石に君臨しているのには5つの要因があるそうだ。
☆希少価値…産地が限られている(南アフリカ、ブラジル、インド、シベリア、オーストラリア)。鉱石4t中に原石1カラット。宝石クラスは10〜20%。
☆キラキラ輝く…宝石中、光屈折率が最大で、入った光が外に出ないで内部で全反射してしまう。その性質に副った特殊なカット(ブリリアント カット)。
☆傷がつかない、擦り減らない…鉱物中最も固い。
☆澄み切った透明性…紫外から赤外まで光をよく透す。
☆安定…ダイヤは地底深くの高温高圧の下で作られ、数億年前の火山活動で地表近くに出てきて急冷された。準安定状態だが変化しない。

 ダイヤの宝石としての評価には「4つのC」がある。
☆カラット(Carat、重さ)…1カラット=0.2g ギリシャ時代の天秤の錘だそうだ。
☆クラリティ(Clarity、透明度)…10倍のルーペで観察してキズ、内包物を調べる。瑕疵の全くないものは博物館級。
☆カラー(Color、色合い)…天然ダイヤは窒素を含んでいて黄色みを帯びる。マスターストーンと比較する。黄色が強くなるほど値が安い。けれどブルー、ピンク、ファンシイイエローなどのカラーダイヤは希少。放射線照射で着色可能だが、裏から見ると色合いが一様でないので判る。
☆カット(Cut、研磨仕上げ度)…研磨法は17世紀オランダで確立。

 ダイヤにまつわるエピソードとしては
☆カリナン・ダイヤモンド…世界最大の原石 3106カラット 600g 南アで子供が拾って何人かの手を経て英王室に献上された。9個の大粒ダイヤにカットされカリナンⅠ(550カラット)は王笏に、カリナンⅡ(317カラット)は王冠につけられ、いずれも戴冠式などに使われる。
☆ホープ・ダイヤモンド…45.5カラット 有名なブルーダイヤ。
☆最近のオークションで24.7カラットのピンクダイヤが〜83億円、100カラットのファンシイイエローが15〜25億円。

 それからダイヤの採掘法、ダイヤを人工的に作る方法やダイヤの工業応用(研磨材、スピーカーの音響板、人工衛星の窓、トランジスタなど)について説明があった。
 日本で最初に人工的にダイヤを合成したのは住友電工だそうだ。なにしろ地底深くの条件(1,500℃、5万気圧)を再現しなければならないので簡単ではないらしい。
 講師は技術面のことをパワーポイントでかなり詳しく説明してくれたが、こちらの理解度に問題があり割愛させていただきます。

 私はロンドン塔でカリナンの王冠を見、南アフリカで巨大な渦巻き状のダイヤ採掘跡を見、世界のダイヤ取引の中心地アントワープの研磨工場を見、ブラジルの宝石店で分不相応な時計を当時の妻に買ったりしたが、すべて昔のこと。北野高校からの帰途、世の中にダイヤモンドが存在しなかったら世界の歴史はちょっとばかり変わっていただろうかとふと思った。


reporter:今井滋郎(64期)
 ショーン・コネリー007のド派手な総天然色ポスターをバックにした第118回六稜トークリレー「ダイヤモンドは永遠に」の公式ポスターの下には、小さく「映画鑑賞会ではありません。お間違えのなきようお願いいたします。」とあった。
 同期の栗岡豊さんの講師紹介で始まった今日のトークは、そもそもダイヤモンドの正体は何か?から始まり、ダイヤモンドにまつわる幾つかのエピソード、ダイヤモンドの人工的製造法から宝石以外の使い道までと多岐にわたりました。
 昭和27年、北野から20人近く入学した阪大生は石橋の教養部で青春時代を送りましたが、白藤、栗岡、今井もその仲間でした。

1.まずダイヤモンドの正体は?
 純粋の炭素だけで出来た巨大な立体構造をもつ結晶である。
90余りある自然界の元素のうち、炭素は6番目の軽い元素で、原子には隣同士で共有する手が、4本または3本あり、ダイヤモンドは互いに4本の手の共有結合で立体構造を成し、同じく純粋の炭素でできたグラファイト(黒鉛)は、互いに3本の手による共有結合で層状構造を成す。
 古代から貴い石として珍重されてきたダイヤモンドも、近代化学によってこのような純粋の炭素から成る結晶であることが分かった。炭素だから、他の炭と同じくダイヤモンドも火に会えば燃える。

 ここで、阪大教養部時代に習ったドイツ語のテキストの一節をリポーターの私は思い出していました。
上京してきてミュンヘン大学で学び始めたハンス・カロッサら医学生を前に、化学の授業でアドルフ・フォン・バイヤー教授はダイヤモンドの小片をバーナーの焔にかざして燃やしてみせ、ダイヤモンドが炭素であることを示した。は、H.カロッサの「ダス・ヤール・デア・シェーネン・トイシュンゲン(美しき惑いの年)」の冒頭に出てくるエピソードでした。バイヤー教授は青色染料インディゴの合成に成功して富を得たからダイヤモンド小片を燃やすことも出来たのでしょう。そして徳島伝統の藍染め産業は壊滅。

2.ダイヤモンドが最高の宝石とされるのは次の5つの特性による。
① 希少価値:主産地が限られる上、4トン集めた鉱石にはダイヤモンド原石は1カラット(0.2㌘)つまり、4千万分の1しか含まれていない。宝石クラスの上物は、さらにその5〜10分の1しかない。
② キラキラ輝く:宝石では最大の光屈折率だから入力光は裏面で全反射する。
③ 鉱物中もっとも硬い:ダイヤモンドと較べて水晶は0.7、ガラスは0.5。
④ 透明性: 紫外線・可視光線・赤外線まで光をよく透す。
⑤ 安定性:普通の状態では不変。

3.ダイヤモンドの宝石としての評価(4つのC)
① Carat : 1カラット=0.2グラム
② Clarity: 透明度は、10倍ルーペで、キズなどの有無を調べる。
③ Color : 天然ダイヤモンドは窒素を含んで黄みを帯びる。基準石と比較して判定。
④ Cut  : 研磨仕上げ度(研磨法は17世紀にオランダで確立)

4.エピソード
 カリーナダイヤモンドは世界最大の原石3106カラット(600グラム)で、1905年に南アフリカで子供が見つけた石ころ。のちに9個に分割されて、イギリスの戴冠式の王笏(550カラット)、王冠(317カラット)に嵌め込まれている。

5.ダイヤモンドの生成と採掘
 地底深くの高温・高圧下に存在していた炭素原子の集まりが地殻変動・火山活動によって地表近くに移動し急冷されて硬いダイヤモンドとなった。それを採取する方法は、
① 漂砂鉱床:砂金と同様の採取方法
② パイプ(筒状)鉱床:キンバ―ライトという鉱物と同居しており、直径数百米のすり鉢状に掘り
下げ、さらに千米の深さまで掘り進む。

6.人工的につくる。
① 高温・高圧合成 : 天然と同じ条件 1,500℃、5万気圧を人工的に再現し、10カラット大まで可能。
② 気相合成(膜状):プラズマや高温下で炭素含有ガスを分解して基板上に堆積させる。

7.工業利用 (ダイヤモンドの80〜90%を占める)
 先に述べた宝石としての特徴-硬い(研磨剤)、透明(人工衛星の窓、レーザーの窓)の他に、半導体としての性質があり、紫外線センサー、トランジスタ、電界放射など電気的性質を持ったダイヤモンドが、白藤さんの研究対象として最後に紹介されました。

 講演後の質問「石炭や備長炭も地底と同じ高温・高圧にすればダイヤモンドになりますか」には、「グラファイトのような純粋の炭素の塊なら高温・高圧下でダイヤモンドになるが、石炭や炭は不純物が多く、炭素同士の結合以前に不純物金属と結合してしまいダイヤモンドにはなりません。」との答。冒頭からダイヤモンドは純粋炭素原子の集まりだと説明されていたのを聞き漏らされたのでしょうか。

 今日のトークは、007のポスターで始まったのでレポートにも若干の脚色を加えました。
                                             完


 六稜トークリレー Talk Relay