六稜ト-クリレ-【第10回】

    六稜NEWS-040703


    ほんま、日本の医療はどないかせんとあかんでぇ
    「医者の選び方、医療の創り方~医療現場の舞台裏から」
    奥 真也さん(93期)

    reporter:中川英樹(93期)

    photo:森田淳二、北 和浩(93期)


    午前中の講演を聴いた在校生の質問攻め
    にあう奥さん。医学部を狙う北野生には
    大いに参考になったようだ
      奥真也さんは、埼玉医大総合医療センターで放射線科医として勤務する傍ら、ベンチャー企業への投資・育成をするウィルキャピタルマネジメント社の事業に参 画。昨年7月には自ら株式会社レーグルを設立し、医療関連事業へのコンサルテーション活動を開始。さらに今年6月からは、東大が産学連携して、臨床医学の 発展と医療関連産業を育成するため設立した22世紀医療センターのプロジェクトで中心的な一役を担うという、たいへん多忙な中、母校のために東京から駆けつけてくれた。

      しかも当日は、午前中が北野高校進路部からの依頼で(「知的世界への冒険」)医学部進学を志す在校生・保護者のために自らの経験を語るというダブルヘッダー。そんな奥さんの熱意に応えるかのように、午前の講演の参加者は150人、午後も100人を超える大盛会となった。


      応援に駆けつけた93期の女性たち。
      受付や資料の準備などで大活躍


      「真面目な話をしつつ、笑いも取る。
      やっぱり大阪のおひとやねぇ」

      一般向けの午後のトークリレーでは、難しい話を誰にでも理解しやすいよう、「白い巨塔」やみのもんたの司会で有名な「おもいッきりテレビ」を例に出し、時 にはブラックジョークも交えながら、終始わかりやすい言葉で話され、最後まで飽きることなく、実に楽しい時間を過ごさせていただいた。東大の後輩が「白い 巨塔」を監修していたそうで、同ドラマに出てくる数々の信じられないようなエピソードもどこかの病院であった実話だとのこと。また、同ドラマが放送される 時間帯に当直していると、ふだんはひっきりなしにくる放射線科への撮影の依頼が「なぜかほとんど来なかった」とも。

      現在の日本の医療について奥さんは、医療側も患者側も危機を感じているが、危機の内容が微妙にずれている。1938年に発足した医療保険制度は、36年続 いた 1割負担が、97~2003年の6年間で2割から3割へアップ。このペースから単純計算すると2004年に4割負担ということになるが、実際にはそうはな らなかった。しかしそれも当たらずも遠からずで、このままでは医療保険制度は崩壊してしまうと警告。
      20年ほど前に厚生省(現厚生労働省)が将来医師は余ると予測し、大学医学部の定員を削減したが、この予測は外れ、現在医師は足りない。医療の発達に伴 い、ひとつの病気を診断するのにも、複雑ないろんな機器が使われ、それを使って判断するたくさんの医師が介在するようになったからだ。特に、麻酔科、小児 科、産婦人科、放射線科では、医師不足が深刻だ。

      また、現在の医療保険制度の下では、例えば腕の良い医師が1回で病気を治して1万円の収入があるとして、腕の悪い医師が同じ病気を治すのに10回もかかる とすると10万円の収入となり、悪い医師の方が10倍も収入が多いという構造的に大きな問題がある。これでは、休みも取らず懸命に働いている真面目で優秀 な医師は報われない。
      一方、医療過誤の問題がクローズアップされ、医療への風当たりは厳しい。医療ミスはあってはならないものとはいえ、最近のメディアの行き過ぎた報道には眉をしかめる。


      パワーポイントを使ったので場内は暗いが、
      ほぼ満席となった六稜ホール(六稜会館3F)

      現在、保険医療の市場規模は33兆円で、パチンコ産業(30兆円)とほぼ同じ。パチンコのお金を10兆円ほどまわして、保険医療に投じ、市場規模を40兆 円ぐらいにする。これに呼応して、医療周辺産業が60兆円程度に成長すれば、かなり日本の医療も持ち直せると持論を展開。

      昨今、患者側の医療への不安からか、病院ミシュラン、名医ランキングといった本が売れているが、これらの信憑性は疑わしい。理由は、知人も何人か掲載され ているが、実際に取材を受けていない場合が多いからだ。また、ランキングの指標として手術の成功率などの数字が示されているが、簡単な手術ばかりをする病 院と難しい手術ばかりする病院の数字を単純比較しているので公平ではないと指摘。

      一病息災という言葉を引用し、かかりつけの医師がいることは、一つの病気を診てもらうだけではなく、他の病気の早期発見にもつながる。また、手術などの重 要な決断が必要な場合には、主治医とは別の医師にセカンド・オピニオンを求めることをぜひ薦めたい。一方で、医師の中には別の医師への紹介を嫌がる人もい たり、セカンド・オピニオンを目的に診察を受ける仕組みが整備されていなかったりという、現状の問題点にも触れた。


      講演後も熱心な質問が相次いだ。
      医療問題への関心の高さがうかがえる

      医療側の問題として、朝早くから病院へ行っても午後まで診察を受けられないという美容院など他のサービス産業では考えられない実態がある。患者の側に立った、より便利な医療に脱却すべきだが、患者を「患者様」と呼ぶなど形だけのものになっている現状には首を傾げる。

      最後に抱負として、医療は単に病気を治すだけではなく、一人ひとりがより健康で、体力をレベルアップしていけるような予防医学の開発に力を注ぎ、22世紀 に生まれたとされるドラえもんのポケットに入っている未来の医療ツールを21世紀のいま開発していきたいと締めくくった。

    Last Update: Jul.14,2004

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