金水 敏 プロフィール
大阪大学大学院文学研究科・教授。1956年大阪生。博士(文学)。大阪府立北野高等学校87期(1975年)卒業。東京大学大学院修士課程修了。東京大学文学部助手、大阪女子大学文理学部講師、神戸大学文学部助教授等を経て現職へ。専門は日本語の歴史的研究および役割語研究。主な著書に『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店、2003年)、『日本語存在表現の歴史』(ひつじ書房、2006年。新村出賞受賞)。
北野高校時代はオーケストラ部に所属し、フルートと指揮を担当。また部長を務めた。
演題:知らないようでみんな知ってる不思議な言語:「役割語」 役割語とは、話者の人物像(キャラクター)と緊密に結びついた話し方の類型をさします。例えば、「(そのことは)私が知っているのだ」という発話を「わしが知っておるのじゃ」と言えば老人、「わたくしが存じておりますわ」と言えばお嬢様や貴婦人、という具合です。現実にそのように話す老人やお嬢様に会ったことがなくても、私たちはこのような話し方と人物像の結びつきについてよく知っています。これは、私たちが子どもの頃から接している絵本、マンガ、アニメ、ドラマ、映画等の作品を通じてくり返しそのような類型に接することから学習されたのです。現実とは必ずしも関係ない思い込みという点で、役割語は言語的なステレオタイプの一種と考えることができます。 役割語はどのようにしてできるのでしょうか。多くの場合、現実に特定の話し方をする話者が存在し、それをその人の人物像と結びつける知識が社会の中で固定化・共有されるところから始まります。一旦知識が社会で共有されると、その結びつきをフィクションに応用することが始まります。その後は、現実から離れてフィクションを介して世代から世代へと役割語の知識が継承・拡散されていくということが起こります。また、まったく現実の話者と結びつかない役割語もあります(例:宇宙人やロボットの話し方、ワンワン語など犬のしゃべり方など)。その場合、誰かが創始したそのような話し方が上記と同じようにフィクションを通じて流通・継承されていく訳です。 役割語については、2003年に出版された『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』で広く知られるところとなりました。その後、研究プロジェクトが形成され、今日までに2冊の論文集が刊行されました。理論的な研究だけでなく、日本語教育や翻訳教育など、応用的な分野でも着目されるようになっています。トークでは、役割語の概要、歴史的起源と、研究の到達段階や課題について分かりやすくお話しします。