われら六稜人【第41回】昆虫少年、博物館へ

第6展示室
研究かサービスか

    普段はですね。理想的には…「研究」の時間が半分で、残りの半分でいろいろ普及講座をやったり展示をやったりしていくのが望ましいと思うんですけど。特に 去年から今年にかけては、ほとんど研究の時間は取れてないですね。従来の博物館では、どうしても学芸員が「雑芸員」になってしまって研究ができない。そんな雑用に追われて10年~20年が経つと、どの人も商品価値が極め て低下していて第一線の仕事ができなくなっている。そうすると結局、普及講座にしても展示にしても面白いものができなくなって行って…そのような悪循環の 中で、だんだん博物館が衰退してしまうんじゃないか。
    そうならないように、当初から、まずきっちり研究できる体勢を取っておこう…研究体勢を充実させよう…ということで、姫路工業大学の研究所ともドッキング していますし、僕の肩書きも学芸員ではなくて研究員になってます。そうやってスタートしたんですが、結局この7~8年で外からどう評価を受けたかと言うと 「研究ばっかりやってて他のことはせえへんやないか」と(笑)。

    このバランスはなかなか難しいんですよ。個々人の仕事の仕方と博物館全体としてのパフォーマンスと両方ありますからね。その均衡をどう取って行くか…去年 あたりから一年間、いろいろと試行錯誤をしてますけどね。
    今までは研究部の所属だけだったんですけど、今年から事業部と研究部の両方の肩書きをつけるようにして…僕の名刺、企画調整室になってるでしょ。企画調 整っていう部門と研究部の両方の所属になっているんです。これまでの博物館には企画調整機能なんていうのはあんまり無かったですから、それを動かして行か ないといけない…っていうのは実際、大変なんですよ。

    「企画調整」…つまり名前の通り、企画部門/マネージメント部門のほうもやって行くわけですからね。そんなことしてると外に行く時間が無くなってしまう。 僕らがフィールドに出れないっていうのはね、料理人や店のオーナーが食材を仕入れできないのと同じなんですよ。仕入れができへんかったら売る商品が無いわ けですから。仕入れのためには外に行かないといけないんですけど…普及講座とか館内の仕事が多くなると、なかなかフィールドに出れなくなる。
    そうすると、もう…腐ったもんを出しちゃうとかね(笑)。やばいでしょ、それって。調味料で誤魔化しながら鮮度の悪い料理を出す…とかいうことになると、 やっぱり良くないから。常に良い素材を出せるようにしとかないと。


    ▲総ガラス張りの化石工房
    ▼日曜祝日には実演して見せてくれる

    実はセミナーをこれだけ乱発したのも苦肉の策なんですよ。セミナーの予定をはめてしまうと、少なくともこの日は大手を振って外に出れる(笑)。少なくとも この日に会議があったって、会議に出る必要はないわけですよ。それくらいやらんとアカン。「一粒で二度おいしい」仕事の仕方をしていかないと…外に出て、 フィールドに行って、データも取りながら同時にセミナーも展開していく。そういうやり方を開発していかんと、これはちょっと回らんなぁと(笑)。他の一般 のビジネスマンも思いは同じかも知れませんけどね。
    どうせならね。セミナーをやること自体も研究テーマにしたいと思ってるんです。例えば「昆虫学ハイスクール・12回セット」とか「地域昆虫相調査実践・ 10回セット」とか…これは実際に野外で調査することが大きな目的なんですけれども、このセミナーを受講することによって、どの程度教育的な効果を得られ たか。このプログラムにどういう意義があったか。そういうような基本線をちょっと押さえときたいなと思うわけです。
    一年間こういうことをやってきて、初心者がどれくらい分かるようになったか。あるいは、ある程度の経験者がどれくらい成長できたか…それを一度検証してみ たいと思ってるんです。うちのスタッフにはアンケート関係のプロもおりますからね。結果的に「環境教育論」とか…その手の教育関係の研究成果に発展する可 能性もありますし。

    これがある程度…カタチになって来るとですね。僕は「パッケージ商品」にしたいと思ってるんです。例えば「うちの博物館ではこういう調査を市民参加でやり ますよ。一年後にはこういう結果が出て来ますよ。これを、おたくでもやりませんか?」…たぶん、自治体や学校にとっても悪くない話だと思うんです。だか ら、セミナーを実施しながら、データも取り、同時に商品開発もできたら…ええんちゃうかなって気がしてるんです(笑)。
    そうやって博物館もどんどん外に出て行かないとね。三田という町は、車で来るのにアクセスは悪くないんですけど、時間距離よりも経済距離のほうが結構デカ い…ってところがありまして。我々のほうから出向いて行くアプローチも考えないと、基本的に「待ち」の姿勢だけではやっていけないんです。兵庫県は広いで すからね(笑)。一応、県立ですから…守備範囲は淡路から但馬までカヴァーしないといけない。
    こういうのを最近、博物館業界では「アウトリーチ・プログラム」と言うておりますけれども、外に出て行くようなもの「出張スタイルの博物館」を実施してい かないとアカン…そのためには、ここでやってみて、きっちりパッケージ化の目処が立たないことには外には出せませんからね。

Update : Apr.23,2001

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