JCOウラン加工施設の建物 (科技庁ニュースレターより引用) |
第4段階
JCO事故と原発事故
1.JCO事故の責任はどこにあるのか
99年9月、茨城県東海村のJCO(住友金属鉱山の子会社)で起こった臨界事故は衝撃的でした。死者が出たうえに、多数の住民が被曝者になったのです。こ の事故を名古屋で聞きましたが、翌日の午前の講義を済ませ、ちょうど運転再開された電車で現地に着きました。事故の翌々日、周辺では屋内退避の最中でした が、交通規制もなく事故工場の敷地境界で放射線量を測定しました。最高でも通常の10倍程度だったと記憶しています。
この事故は「JCOが会社ぐるみで裏マニュアルを作り、従業員がさらに手抜きして、事故を起こした」とされています。これは「上司のいいかげんな指示にしたがって、運転員がでたらめな運転をしたので、チェルノブイリ事故になった」というのに似ています。
チェルノブイリの上司たちは裁判にかけられ、服役しましたが、悪いのは原子炉の方だということが分かって、後に釈放されました。
申請書やマニュアルで「臨界事故は絶対に起こらない」としていたのは、臨界事故を起こすような材料と装置を使わないことが前提です。実際、材料として天然 ウランや原発に用いる5%程度の低濃縮ウランを扱うかぎり、バケツで溶かそうが問題の沈殿槽一杯に入れようが、事故にはならないのです。純粋のウランはプ ルトニウムと違って放射能が少ないので、バケツで扱っても、別に問題ではありません。
ウランには燃えるウランと燃えないウランがあることはご存じと思います。この燃えるウランの割合を濃縮度といっていますが、原爆に用いるウランの濃縮度は 80%以上で、20キロ程度で臨界になり、核分裂反応が進行します。そこで、広島型ウラン原爆ではこのウランをふたつに分けておき、急速に合体させて核爆 発させるのです。
原発用の濃縮度5%程度の低濃縮ウランは、そのままでは大量にあっても臨界になりません。そこで原発では数十トンの低濃縮ウランの燃料棒を水中にぶら下げ て、臨界状態にします。この場合、水は危険物質で、核分裂反応を促進するのです。原発はこの臨界を制御棒で制御して運転し発電しているのです。
ところで、事故を起こしたJCOの作業は、動燃(現核燃サイクル機構)の「常陽」という特殊原子炉の燃料加工でした。これは濃縮度が20%程度の中濃縮ウ ランですが、粉末状態では危険はありません。しかし、これを10キロほどの濃厚水溶液にしますと臨界となる危険性があります。この臨界を防ぐには、装置の すべてを20センチ程度の細い管状にしておくなど工夫が必要です。これを形状臨界管理といいます。この臨界管理をしておけば、臨界事故はあり得ません。
東海村の事故は、この起こるはずのない臨界事故が起こってしまった、というものです。したがって、もっとも責任の重いのは当然JCOですが、原子力安全委 と科技庁にも重大な責任があります。それはこのような危険な中濃縮ウランの水溶液を扱うのに、形状管理を徹底せず、直径50センチもある沈殿槽の使用を許 可したからです。
さらに、動燃にもやはり重大な責任があります。そもそものJCOと動燃の契約は、粗製の中濃縮ウランの酸化物を精製して、粉末で動燃に納入することでし た。この精製作業でもウランの水溶液を使うのですが、良質の沈殿を得るためには濃度の薄い水溶液を使うので、臨界になることはありませんでした。
ところが動燃は、この契約を変更して、濃度の濃いウランの硝酸溶液で納入することを要求したのです。これには臨界の危険が伴いますから、この作業に適合し た新しい装置が必要です。しかし、動燃はこの装置を作るための資金をJCOに渡しませんでした。そこでJCOはそれまでの装置を目的外使用して、事故にし てしまったのです。つまり、この事故の直接の原因は動燃にあるのです。しかし、動燃のこの責任を追求する声はあがっていません。そして、JCOとその作業 員だけが事故の責任を問われようとしています。
2.裸の原子炉の自動運転だった
事故が起こって10分後、JCOは沈殿槽の中での臨界事故であることに気がつきました。ところが臨界がその後も続いていたのです。核分裂反応で熱が発生 し、これにより水の体積が膨張したり、泡が生じたりしますと核分裂が抑えられます。そうすると水は冷えてまた核分裂が進みます。この繰り返しでいわば原子 炉の自動運転の状態になっていたのでした。
ところが、原子力安全委員だけでなく、東海村在住の原子力関係者の誰もが、臨界が続いているとは理解できず、呆然と時間を過ごしていたのです。ようやく6 時間後に2キロ遠方の環境中性子の測定器により臨界が続いていると分かりましたが、その後もどのように対処してよいか分からず、時間ばかり経過しました。 沈殿槽の周りの冷却水を抜けばよいと気づいたのは12時間後でした。そしてその作業の開始は事故後16時間も過ぎていました。 臨界が続いているかどうかは、強いガンマ線が出続けていることから分かります。これは原子力の初歩的知識です。これさえも理解していなかった日本の原子力 のレベルの低下は目も覆うばかりです。この16時間余、強い中性子線に近隣の住民は曝されることになったのでした。
今回の事故で、中性子線により強く被曝した作業員3人の線量は、致死量の10シーベルト程度が2人と放射線障害の5シーベルト程度が1人と考えられていま す。この被曝者に、中性子爆弾を持つ国々は大いなる関心を寄せました。中性子被曝の動物実験は済んでいますが、人間の実験はできていないからです。外国人 が多数来日しましたが、治療方法とその効果は彼らにとって重要な軍事情報となったに違いありません。
近隣の住民の被曝は基準値の1ミリシーベルト以上の者が約100名です。臨界が続いていることを当局が早めに察知し、住民を避難させ、さらに自動運転状態の裸の原子炉を適切に止めていれば、これほどの被曝をしないでも済んだのでした。
この事故の被曝は主に核分裂の中性子によるものでしたが、放射能による被曝も受けています。それは事故発生の建物のすぐそばの建設作業場にいた7人です。 短い半減期の放射性ヨウ素134などの煙に襲われ、頭痛や吐き気が生じています。しかし、医師たちはこの人達の訴えを気のせいと無視してしまいました。
3.今後の原発事故とその対策
これから起こるかも知れない原発事故では、今回のような中性子線被曝はほとんど考えられません。仮にチェルノブイリのような臨界事故だったところで、原発 は裸ではありません。格納容器に包まれており、原発の敷地境界の外へ届く量はごくわずかです。したがって、地方自治体が中性子測定器を多数購入しました が、将来使うことはないと思われます。測定器の業者だけが儲けました。これも原子力の知識の不足です。
原発事故でもっとも恐ろしいのは、原子炉が破壊されて、出来たばかりのヨウ素134などの若い放射能が煙となって流れてくることです。この煙に巻き込まれ、呼吸で体内にこの放射能が入ると10シーベルト以上の内部被曝をして、死亡することになります。
1960年の原子力産業会議の計算では、廃炉になった小型の東海原発が事故を起こしたとすると、晴れている夜の事故の場合、700人を超える住民が、呼吸で放射能を吸い込み、死亡することになります。この報告書は、昨年までマル秘扱いでした。
この被曝を防ぐ方法は、放射能の煙を吸い込まないようにすることです。そのためには、原発から10キロ以内の住民は放射能の煙に巻き込まれないようにともかく逃げることが必要です。自宅待機や公民館への退避では、放射能の煙に巻き込まれることになります。
不幸にして放射能の煙に巻き込まれたときは、火事対策と同じです。鼻と口を濡らしたマスクや濡れ手ぬぐいで覆い、放射能の煙が身体に入らないようにしま す。これらの方法で身体に入る放射能を10分の1にして、10シーベルト以下にできれば、放射線障害にはかかりますが、放射能で死ぬことは防げます。さら に10分の1にして、1シーベルト以下にできれば、急性放射線障害にもかからないで済みます。
今年の3月23日、福井県の敦賀で、住民を巻き込んだ防災訓練がありました。当日早朝から避難訓練の様子を見ていましたが、住民の誰も濡れマスクや手ぬぐ いをしていませんでした。消防士もマスクもせず、事務服で被曝者をタンカーで運んでいました。警官も同じで、普段と変わらぬ交通整理をしていました。放射 能の何が怖いのか、誰もが何も考えずに、防災訓練をしていたのです。
それは、原子力や放射能の専門家といわれる人々が、原発事故で発生する放射能が煙状になって襲うという問題を考えようとしていないからです。そのため県や 市の職員、消防士、警官はおざなりの訓練をすることになるのです。ここでも、日本の原子力のレベルの低さを見せつけられました。
この敦賀の防災訓練では、ドイツのテレビ局のメンバーが取材していましたが、彼らがこの訓練を見て“childish”(「おままごと」)とあざけっていたことが気になります。
Update : Mar.23,2000