写真提供:国立天文台 |
4億光年
超望遠鏡「すばる」
誕生の秘密
- ハワイの8.3m反射望遠鏡「すばる」の画期的な点は、自重変型や空気のゆらぎによる結像性能の劣化から、望遠鏡が解放されたという点です。もし、普通 に直径8mからの反射鏡をつくれば、そのガラスの重さは百トンを越えます。ガラス自体の質量が大きいため、そこにかかる重力だけで鏡が歪んでしまい、高精 度の観測は期待できません。時間も費用もかかります。ポイントは、鏡を軽くすることです。その解決策は、空洞をつくるか、薄くするか、です。ある問題点を 解決できれば、ぼくは薄くする方法がいいと考えました。問題点とは、薄くすると曲がりやすくなることです。この曲がりを解決する問題が、ぼくの学位論文の 話につながるんです。
例えば、この円盤状のもの(コーヒーカップのソーサー)を叩くとカチンと音=振動がします。それと同じで、2,000億の星からなる円盤状銀河の自らの重力による振動を考えると、渦巻き模様ができる…というのがぼくの学位論文なんです。
8mの反射鏡の曲がりも、いわば振動の一種なのです。それを数学的に表現すると、ぼくの学位論文でつかった式と同じ式が出て来るのです。それで、ぼくと しては8mの薄いガラスの曲がりを何らかの方法で補正して、いつも理想的な形を作るというアイデアがひらめきました。これは理論的には学位論文と同じだ。 このことは、すごく自分の頭のなかにすっきり入ってきました。この方式を能動光学と名づけました。
基本的にどんなものでも、きちんとその状態を把握して計り、理想的な状態へどうやって直すか分れば、あとはその装置をつくればよいわけです。原理として すっきりしてるんです。これならできるなと、自分自身でも納得したものですから「じゃあ、やりましょう」と、いろいろな方面の協力で、始めてから15年か かって今日まできました。
8.3m鏡の最終試験検査を終えて (ピッツバーグ、1998年)※世界最大で最高精度の鏡に仕上がったこと が確認され、現地で記者発表した時の様子。 連日徹夜に近い作業での最終検査だった。 |
第二の画期的な点は、望遠鏡を空気の揺らぎから解放するという点です。実際には空気の揺らぎを打ち消すというアイディアです。この装置は、空気の揺らぎ を計測し、それを補償する動きを小さな薄い鏡に与えて、見かけ上揺らぎによる悪い影響をなくしてしまうという仕組みです。これは先ほどの、重力による大き な鏡の曲がりをコントロールする能動光学方式と、原理的に同じですが1000倍早く動かす必要があります。空気のゆらぎをキャンセルする装置は補償光学と 呼んでいます。
「すばる」の観測装置シミュレーター |
これらの技術によって、理論的には、これからの反射望遠鏡はどんな大きさのものでも作れるわけです。ある外国の研究者は、次は100m級をつくろうと言っていますが、現実的には次は30m級でしょうね。