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日時: | 2007年9月19日(水)11時30分〜14時 |
場所: | 銀座ライオン7丁目店6階 |
出席者: | 57名(内65会会員:江原、大隅、正林、峯) |
講師: | ジャーナリスト 大野和基氏(85期) |
演題: | 「表現の自由」 |
講師紹介: |
(講師より受領した略歴による) 1955年兵庫県西宮市生まれ。大阪府立北野高校卒。東京外語大英米学科卒業後、1979年渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。 |
講演内容: (要点のみ) |
最近、週刊文春の田中真紀子の娘の差止め裁判に代表されるように、「表現の自由」をおびやかすような裁判がますます増えています。しかも、この一審で、この差止めが認められるという前代未聞の判決が出て、マスコミは震撼させられました。23年間このジャーナリズムの世界にいますが、自分が取材した記事で、差止め裁判にかけられたことは数回ありますが、実際に差止めになった記事はありません。さらに、一昨年、週刊誌でやった記事で、私自身が出版社と共に、名指しで名誉毀損で訴えられ、しかもロサンゼルスで訴えられたので、大変な拷問にあいました。東京のアメリカ大使館の予定が詰まっているために、大阪のアメリカ領事館で、5時間にもわたって、アメリカ人弁護士の前で尋問にあったわけです。取材を英語でやっているので、証言録取とは言え、通訳をつけるわけにもいかず、間違ったことを言うと偽証罪にもなりかねないので、それは拷問でした。担当編集者は通訳をつけたので、17時間にもわたり、2日間拷問にあっております。 これはあきらかに勝訴することが目的ではなく、いやがらせ裁判です。記事を書いたらこういう目に遭うという見せしめです。 近年、週刊誌は、萎縮状態にある。つまり、取材で100の事実をつかんでも、編集部サイドで、ここを書くと訴えられるから、削除、あそこも訴えられそうだから削除、となって最後にできあがる記事は、全然おもしろくない、どうでもいいような、味のない記事になってしまうのです。書かない部分の方がはるかにおもしろいが、その部分を知るには、ぼくとお酒を飲むしかありません。 この萎縮現象は、2001年ごろから起きました。それまでは、名誉毀損で訴えられて、敗訴してもせいぜい100万円程度の罰金であったのが、その年から急に500万円になり、さらに1千万とか億の単位でも訴えられるようになったからです。週刊現代が今訴えられている損害賠償額は50億円にもなります。 この中に昔、裁判官をやっておられた方とか、弁護士の方おられませんか、正直に手を挙げてください(笑)。 どうみても、非常識な判決を出す裁判官が増えているような気がします。田中真紀子の長女の記事のときもそうでした。誰もが裁判官がおかしいと思ったのです。最近の裁判官はどうかしているのではないでしょうか。田中真紀子の長女の場合は、ひょっとして、裁判官が田中真紀子がこわくて、差止めにしたかもしれませんが(笑)、実際は、真紀子の長女ではなく、夫の方が起こしたのです。文春もそのことを知らないかもしれませんが、夫は私の大学(東京外語大)の後輩で、家はお寺です。田中真紀子の娘と結婚する気持ちはまったく理解できませんが、彼こそがこの差止め裁判を起こしたのです。でも世間では、田中真紀子がバックにいて、長女が起こしたと思われているでしょうね。それは仕方ありません。長女の方は、裁判を起こすのを止めようとしたくらいです。使った弁護士が、たまたま田中真紀子の弁護士と同じでした。 この事件以来、マスコミはますます萎縮して、訴えられないようにするために、おもしろくない記事ばかりをやり、雑誌はもっと売れなくなってきています。インターネットの2チャンネルの掲示板の方がよほどおもしろい情報があります。ただ、ネットでも名誉毀損で訴えられ、敗訴する時代ですから、憲法21条で保障されているはずの「表現の自由」はどこに行ったのでしょうか。テレビはもっとも表現の自由がないメディアです。 取材中でも「これを記事にすると、訴えます」と言われることがときどきあります。「訴える」とは言わずに「法的手段をとります」と言われます。同じことですが、実際に訴えてくる人もいますし、訴えてこない人もいます。 ある人は、自分の局から、何億というお金を着服していますが、それを記事にしようとすると、訴えると言ってきます。実際に訴えてきましたが、このときに問題になったのが、取材源の秘匿です。裁判になったからと言って、取材源を明かすことは許されません。もしそうしたら、今後取材に応じてくれる人はいなくなります。特に調査報道の場合、取材源の秘匿をとことん守るから、信用ができるわけであって、訴えられて取材源をばらしたら、ジャーナリストとしての信用はなくなり、今後大野さんの取材には応じません、と言われます。そうなれば、もうジャーナリストの生命は終わりです。 さきほども言いましたが、今日本は何でも訴えてきます。アメリカよりもひどい。アメリカは訴訟王国ですが、ここまで訴えてきません。今の日本は、裁判制度を悪用して、何でも訴えてきます。名誉毀損になってくると、そのケースを扱っている弁護士まで訴えてきます。これは明らかにおかしい。本来の筋からはずれています。弁護士を訴えることで、弁護士が本来やるべき仕事の邪魔をしているのです。自分のことで精一杯になり、他の仕事に支障が来るようにしているのです。完全にいやがらせ裁判です。さらに、最近あったのは、記事中でコメントした人を訴える方法です。記事を出した雑誌を訴えるのではなく、記事中でコメントした人を訴えたケースです。これも明らかに嫌がらせです。これがまかり通るとコメントする人がいなくなります。 最初に述べた、私が名誉毀損で訴えられたケースですが、嫌がらせであることがわかっても、日本であれば、却下できません。それがカリフォルニア州には、Anti-Slapp法という法律があって、勝訴を目的とするのではなく、相手に対する単なる嫌がらせであると証明できれば、そこで却下される法律があります。 SLAPPというのは、Strategic Lawsuit Against Public Participationの略で、「公に参加することに対する戦略的訴訟」わかりやすく言えば、「公の問題や公人について、記事の発表やスピーチをする行為」に対して、名誉毀損などで訴訟を起こすことを意味します。 これは、1980年代の後半から90年代にかけて、アメリカが乱訴の状況になり、その状況を研究していたデンバー大学の社会学教授、ペネロープ・ケイナンらがSLAPPという言葉を考案しました。彼の研究でわかったことは、正義や公正を求めて、訴訟を起こすのではなく、提訴することで、精神的に、経済的に相手を参らせることが目的であることです。1992年に、こういう訴訟を初期の段階で却下しようというAnti-SLAPP法ができました。slapというのは平手でぱしっと叩くという意味ですが、その意味とかけて、I have been SLAPPED.というと「嫌がらせ訴訟を起こされた」という意味であると同時に、ぴしゃりと叩かれた、という二重の意味になります。 普通、訴えられると、証拠開示の段階でも精神的に参ってしまいます。何時間も尋問されますから。 日本も早急にこの法律を採り入れてほしいと思います。日本では、表面的には名誉毀損裁判にみえても、実際は嫌がらせ裁判であることが最近特に多い。 さらに、記事を書いた段階で、間違いであることがわからないこと、つまり記事を出して初めて、間違いであることが明らかになるような事実は、アメリカでは許されます。悪意がないからです。日本では100の事実のうち1つ間違っていてもだめです。また、全部事実が正しくても敗訴することがあります。だから、新聞に、週刊文春が名誉毀損裁判で敗訴という記事が出ると、一般人は、週刊誌が書いた記事が間違っていた、と思うでしょうが、決してそうではないのです。 アメリカは訴訟天国と言われるが、今の日本の現状をみていると、アメリカより日本の方がひどいと思います。一国も早くこの状況から脱するために、Anti-SLAPP法を日本にも取り入れてほしいのです。 |