東京六稜倶楽部【報告】
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    第48回

    reporter:峯 和男(65期)

       
      日時: 2006年12月20日(水)11時30分〜14時
      場所: 銀座ライオン7丁目店6階
      出席者: 51名(内65会会員:江原、梶本、山根、峯)
      講師: BWアセットマネジメント株式会社 代表取締役 武 正雄(80期)
      演題: 「株式市場の明日を読む〜村上ファンドの功罪と日本再生の鍵“長期投資”」
      講師紹介: (上記BWアセットマネジメントのホームページより抜粋)
      1949年11月13日大阪府に生まれる。1969年3月大阪府立北野高校卒業。1973年3月慶應義塾大学商学部(管理会計)卒。同年4月野村證券株式会社入社。1986年7月同社自由が丘支店長。2003年3月財団法人資本市場研究会出向。2005年10月野村證券株式会社退職。2005年10月24日ビー・ダブリュー・アセットマネジメント株式会社設立。野村證券在任期間中1/3は個人営業、1/3は事業法人関連(RM等)、1/3は公開営業(IPO等)関連に携わる。直近10年間は、上場企業トップへのヒアリング等を踏まえ、「企業価値創造」(プレゼンテーション)を繰り返す。執筆等:「株主が目覚める日」(商事法務発行)2004年共著、第4章 「長期投資が教えるコーポレートガバナンスの意義〜コロンブスの卵」を執筆。自負すること: 独特の相場観。32年の経験とその実績において、常に少数意見ながら優れた「先見の明」。また、投資の世界でコーポレートガバナンスの評価を重視しその実践モデル(一つの事例)に挑戦。「長期投資が日本を変える」という固い信念。
      講演内容:
      (要点のみ)
      (1)詳細な資料を用意したが、話ばかりでは面白くないので、最初に少し写真をお見せしたい。(スクリーンに映像を映しながら説明。映像は、会社設立時の「励ます会」のものから、50年前および最近、司 葉子と共に写っている2枚のもの等)

      (2)上記「励ます会」のパーティに村上世彰氏が出席してくれたが、彼と最初に出会ったのは2001年7月のICGN東京大会であった。(注:ICGNは国際コーポレートガバナンスネットワークの略。)自分は当時野村證券に勤務していたので野村の社員として出席した。この大会の際質疑応答で質問に立ったのは村上氏と自分の二人だけであり、その時から彼と話をするようになった。なお、「励ます会」には東京六稜会の幹事役をしておられる黒岩さんも出席して頂いた。また、司 葉子さんとの写真については後刻時間があればご説明したい。

      (3)本日お話したいポイントは下記3点である。
       イ)村上ファンドの功罪
       ロ)1000兆円の借金をどうやって返すの?
       ハ)投資家の時代がやって来る

      (4)ここで一寸脱線して「国家は誰のものか」という質問をさせて頂きたい。
      「国民」と答えた人が半数以上おられるが、これが平均的日本人の回答。
      同じ質問をアメリカ人にすると約半数が「納税者」と答える。日本で「納税者」と答える人は1%程度。日本人とアメリカ人はこのように考え方が異なる。

      (5)さて、「村上ファンドの功罪」である。
      「功」は、一番大事な問題を提起したこと、即ち、1)コーポレートガバナンスが機能していない、2)資産を有効活用していない、などの問題を提起したことは重要であり、この部分は共感出来る。
      「罪」は、1)当初の志が変質し短期志向になってしまったこと、2)運用成果が主体になってしまったこと、3)M&Aのイメージを悪くしたこと
      などである。着眼点は良かったがやり方が如何にもまずかった。世間に悪いイメージを与えたことは彼の失敗である。

      (6)村上氏が目を付けた会社は3つある。昭栄、東京スタイル、ニッポン放送の3社である。
       イ)昭栄事件:2000年に起きたこの事件は彼のデビュー戦でありこれで一躍彼の名前が知れ渡った。TOBは不発に終わったが、株価が上がり筆頭株主であるキャノンが最も儲かる結果となった。この後、オリックスの宮内会長から「君は企業統治のエバンジェリスト(伝道師)なのか、ビジネスマンなのか」と皮肉を言われ、このあたりから彼の志が短期志向に変質していったように思われる。

       ロ)東京スタイル:これに関しては2002〜3年にかけて2年位もたついた。170億円投入して成果はゼロ。しかしここで鍛えられて実質成果第一号のニッポン放送全力投入となる。

       ハ)ニッポン放送:2003年7月に始まり2006年6月の村上逮捕に至るまで世間を大いに騒がせたこの事件は未だ皆さんの記憶に新しいところ。一言で言えば、村上氏のミスはホリエモンや宮内の人物を初対面で見抜けなかったこと。自分は、宮内との間のある取引で、彼が百万円振り込むと言っておきながら実行しなかったことで彼の誠実さに大きな疑問を持ち全然信用しなくなった。

      いずれにしても、村上ファンドは功罪を残し本年11月に市場から退場した。村上ファンドの手法には厳しい批判が相次いだが、「株主と経営者の緩い関係に警鐘を鳴らした」という評価もある。一方、村上ファンドが種をまいた緊張関係が、新しいビジネスとして芽吹き、企業間の提携・合併などに結びつく結果も生じている。村上氏が演じた6年間の壮絶なドラマは運用資産を38億円から4444億円、116倍に急増させて幕を閉じた。
      ついでながら、自分は村上氏は先ず無罪、ホリエモンは有罪と予想している。村上氏が無罪になると検察庁は困るであろうが、宮内亮治という信用出来ない人物の証言に基づく裁判は根拠が弱いのではないかと思う。

      (7)本日のキーワードは下記3つである。
       イ)コーポレートガバナンス(企業統治)
       ロ)サステイナビリティ(持続可能性)
       ハ)アカウンタビリティ(説明責任)

      イ)コーポレートガバナンス…「企業統治」と翻訳されているが正確ではない。
       学者などがいろいろな説明をしているが必ずしもシックリしない。以下に若干の例を挙げる。
      【英国キャドバリー委員会】「会社が指揮され、統制されるシステム」と定義。
      【ロバート・モンクス氏】「企業の方向性と活動内容を決定する際に、さまざまな参加者が互いに作る関係のことであり、主な参加者とは1.株主 2.経営陣(最高経営責任者を頂点とする)3.取締役会。
      【英国コーポレートガバナンス委員会】その重要性は、それが事業の繁栄とアカウンタビリティに貢献することにある。
      【神田秀樹氏(日経経済教室)】要は企業価値を高めることである。
      【上村達男氏】経営権の正当性の根拠を提示するための議論。ガバナンスの権威こそが経営権を根拠付け、ガバナンスシステムの支持こそが安定的で大胆な経営を可能にする。
      【三和裕美子氏】企業が意思決定をし、行動にいたるメカニズム。取締役会の構造、監査役の問題、株主総会の位置づけが議論される。

      ロ)サステイナビリティ(持続可能性)…持続可能な企業を作ること。国家の目標も同様である。

      ハ)アカウンタビリティ(説明責任)…アカウントという言葉が入っている意味は、数字で説明するということである。日本の政治家はこれをずっと怠って来たために前述の如き膨大な財政赤字を積み上げてしまったと言える。

      (8)現在、国は膨大な借金を抱えているが、この額がいずれ1000兆円に達するのは間違いない。我々の子孫にこのような莫大なツケを残して良いのであろうか?

      (9)欧米、及び日本を除くアジアの証券取引所の時価総額を比較すると日本の停滞が目立つ。2006年10月末において、東京4.46兆ドルに対しニューヨークは14.8兆ドル、欧州18市場合計は14兆ドル、日本を除くアジアの主要13市場の合計は5.9兆ドルとなっている。中国もロシアも市場経済に転換しつつあり、BRICs 等がキャッチアップの勢いにある中で日本な何をやっているのか。未だ株式会社制度が正しく理解されていない民度は大鶴特捜部長の「額に汗して・・・」等という発言に現れている。政治家・マスコミ・教育のレベルが低すぎるとの感を否めないがそれが現在の国民のレベルである。この「未熟さ」を大変化へのチャンスと捉えるべきであろう。

      (10)2007年は日本の大転換の時であり、テーマは当然「M&A」である。
      三角合併による激震が起きよう。日本の経営者、投資家は外人持株比率に極めて鈍感である。いずれ、「株式」が世界共通の「通貨」となる日が来て市場の品質、株式(経営者)の品質が問われる時代が来る。その時には「偽者」経営者は市場から追放される。かつてソニーの盛田昭夫氏は、昭和36年米国ADR発行時に株式が通貨に匹敵する現実を見て「経営者は通貨の発行責任を自覚する必要がある」と語っていた。

      (11)「長期投資」が日本を救う〜投資家の時代がやって来る:
      「長期投資」という発想こそが「ダイナミズム」を生む。短期投資は「当てに行く発想」で必ず失敗する。「長期」対「短期」という図式から問題の本質が見えて来る→問題解決への重要な処方箋である。

      (12)日本再生・・・一寸過激な「私の提言」:
       イ)米国以上の「豊かな資本主義体制(武器を持たない)を目指し、そのフィールドの確立。
       ロ)まず、やるべきは「検証」→世界に例の無い土地バブル崩壊の検証→本物資本主義。
       ハ)「教育」のやり直し→徴兵制復活は困難。しかし、教育の要諦は「プリンシプル」と「品格」。

      なお更にご興味のある方は私の著作(共著)『株主が目覚める日』(商事法務)、第IV章「コーポレートガバナンスが日本を変える」をご一読願いたい。

      (13)冒頭の司 葉子さんとの写真であるが、50年前自分の母方の祖父母が工場経営者(戸車製造)であり、映画会社(東宝)から祖父母の工場をロケに使わせて欲しいとの依頼があった(題名、「美貌の都」)。その際主演女優、司 葉子さんがその家に来て祖父母、弟、自分が共に写真をとって貰ったもの。最近、司さんと50年ぶりに再会した。

    Last Update: Dec.26.2006