東京六稜倶楽部【報告】
    第19回

    reporter:峯 和男(65期)

      日時: 2004年7月21日(水)11時30分〜14時
      場所: 銀座ライオン7丁目店6階
      出席者: 70名(内65会会員:江原、大隅、梶本、国政、正林、峯)
      講師: はただ診療所長 畑田 耕司氏(68期)
      演題: 「痴呆と不安と性格と」
      講師紹介: 68期卒。昭和37年京都大学医学部卒。京大病院精神神経科医師を務めた後平成2年「はただ診療所」開設現在に至る。老人ホーム「ハーフセンチュリー」理事長兼務。
      講演内容:
      (要点のみ)
      (1)痴呆を医学的に説明するためのいくつかの前提
      イ)精神は脳の働きによる現象である
      魂とは:死後どうなるかを考える⇒宗教の分野
      医学は自然科学であり、どう分類するかから始まる
      ロ)精神を要素分析すると以下の通り
      知能、感情、意志(意欲)、意識 (知・情・意という言葉はこれを意味する)

      ハ)進化論によれば脳(神経組織)は、意志―感情―知能の順に進化した。
      魚、爬虫類、鳥類の脳は:線条体(意志)
      ウサギ、ネズミ、犬、猫の脳は:辺縁系(感情)
      サル、人の脳は:新皮質(知能)
      意志の病:精神分裂病
      感情の病:そううつ病
      知能の病:痴呆(一番最後の知能の発達部分がやられる。従って意志や感情は機能している)
      脳の大きさはグレープフルーツ程度。厚さは1ミリもない。新聞の見開き程度の大きさが、しわしわに折りたたまれ知能を形成。

      (2)痴呆の原因は新皮質の神経細胞が大量死することである
      イ)アルツハイマー型痴呆:神経細胞は全体で1千億あると言われているが脳神経細胞は200億位。これを、無数の小さい電球が点滅している電光掲示板に例えると ほうっておくと古い電球から切れていくようなもの。老夫婦の片方が死亡して、残された者の痴呆が進んだ場合、伴侶を失ったショックによるものと解釈されるが、そういうことはない。 共通の基盤のない親族から見るとおかしいと思うことでも、夫婦二人だけでは判らない形で進んでいることがある。この痴呆は徐々に来る。
      ロ)脳血管性痴呆:脳内出血などによるもので突然来る。しかし、リハビリということに関してはこちらの方が回復の希望が持てる。

      (3)痴呆の臨床症状
      *記 憶: 短期記憶(記銘力)・作業記憶・さかさ狐
      *見当識: いつ、何処で、誰と、何をしているか?
      *予定を立てる
      *話が通じない〜困惑状態〜ヒステリー状態、大騒ぎ、抑うつ状態
      イ)記 憶:知能の一番の機能は記憶なので、痴呆に関する最初の検査は記憶から始める。現在一般的に行なわれているのは長谷川式検査。  桜・猫・電車 等を覚えさせ一定時間後に思い出させるテスト等。  実の娘が付き添っている場合、予習をさせてしまい、正確な検査が出来ないことがあるので息子の嫁さんが良い(客観的に出来る)。  最初に不自由になってくるのは人の名前。
      さかさ狐とは:自分の体の位置関係が判らなくなる。指の形を狐の影絵を 作る時の形にし、これを両手で作り、片方を裏返し右手人差し指と左手の小指をつけ、右手小指と左手人差し指をつける。この単純なことが出来るか否かをチェック。
      ロ)見当識:自分の周囲の人間関係が認識されているか
      *時間の認識が曖昧になる(午前・午後の認識。これが曖昧になってもまだ大丈夫)
      *場所の認識が曖昧になる(住み慣れた場所かどうか。自分がいるべき場所ではないと思うか否か。これが曖昧になるとその家庭で過ごせるか否かがポイント。生活環境を変える要否の検討)
      *人との関係が曖昧になる(子供の顔が認識出来なくなる)
      ハ)予定を立てる:段取りが立てられなくなるのが一つのポイント
      【痴呆予防の方法】
      *長谷川式を毎日やる
      *最も良いのは、朝一番にその日の予定を大まかでよいから紙に書き
      その日の終わりに洩れがなかったかをチェックする。この方法を薦めている。

      (4)対人関係と精神機能
      知的機能が低下した脳は、その下の感情と意志機能で統合される,知能レベルでの情報伝達には言葉を使う必要があるが、感情と意志は言葉を介することことなく伝達される。当然、痴呆の場合もそうした感情を感じとる能力は保たれている(知能が侵されても感情や意識は侵されていない)。
      痴呆の人とどこでコミュニケーションをとるか、どう対応するか。性格は変わっていないのでその人の性格により対応は異なる。オダテが良い人、それが逆効果の人等々。

      (5)不安の悪循環と「問題行動」
      病人の不安や恐怖が、介護者の感情に伝わって介護者が不安となり、その不安が病人の不安をさらにかき立てるという、不安の投げ付け合いの悪循環に陥る。
      介護者には、こうした場面での感情の悪循環に陥らないための技量が要求される。
      不安は永遠のテーマであるが、まだ判っていないことがある。

      (6)感情と意志は性格(気質)を構成する
      血液型よる性格分類を最初に唱えたのは北野のOBで長崎医大の先生。大丸百貨店に売り込み集客率を高めた。しかし、フィリピンの5000位ある島のうち、ある一つの島の人は全員A型という例もあり、その人達が全て同じ性格ということはあり得ないので、血液型では性格判断は出来ない。

      (7)ソーシャル・スタイルという性格分類
      性格は人間関係の中で表れるものなので、対人場面での行動特徴で分類する。例えば服装(1対多数の人間関係。フォーマルな服装を好むかラフな服装を好むか)、対話(1対1の場面。話したがる方か、聴き手になる方か)等。
      痴呆の人を施設で受け入れる場合、受け入れ側は家族から情報をとるが実の子供等には思い込みがあるので意外にアテにならない。
      この場合も、正確な情報は長男の嫁など、客観的に判断出来る人からが良い。 世話をするスタッフは全て女性で構成しており、高齢化問題は女性問題と言える。女性に人気があり親切にして貰えないと駄目である。

    Last Update: Jul.25.2004