reporter:谷 卓司(98期)
6月29日。理事長自らが関西二期会の創立35周年に寄せたソロ・リサイタル。テノール歌手が花形のオペラの中で、氏のように地の底から響きわたる重厚なバス・バリトンの声質は、不可欠の名脇役が宿命づけられている。そんな中で、氏の定番ともいうべきハマリ役が『魔笛』のザラストロといえよう。モーツァルトのこの歌劇は「フリーメイソンの試練」を下敷きとするもので、氏の体格といい風貌といい、威風堂々の説得力が開幕の一曲を飾った(「この聖なる神殿には」)。
続いて演奏会用のアリアを軽くこなした後で、『フィガロの結婚』から「敵討ちだ」を日本語で披露。関西二期会が終始一貫、自国語公演で日本の音楽界の空白を埋める作業に従事してきた…という経緯を軽妙なトークで綴った。
この後、F.シューベルトの小品を7曲続けて第1部は終了。
続く第2部では、氏が敬愛してやまない…わが国を代表する音楽家、山田耕筰の歌曲『ロシア人形の歌』を、一部ロシア語も交えながら熱唱。曲間のトークでは、相愛大学音楽学部の学部長の職にあった山田先生との交歓の思い出を回想した。
最終のエンディングでは、R.ワーグナーの大作『トリスタンとイゾルデ』の中から「マルケ王の嘆き〜お前は本気で」に本気で挑戦。延々13分間にわたる1曲を、演奏家生命をかけて朗々と歌いきった(とは…一部、御本人のコメントであることを断わっておこう)。