六稜NEWS-971221
    エリザベート王妃国際音楽コンクール入賞記念
    高木和弘(103期)
    ヴァイオリンリサイタル大阪公演

    reporter:小林一郎(78期)



      日 時:1997年12月21日(日) 14:00〜

      場 所:イシハラホール(肥後橋)

      ピアノ:山田武彦

      演 目:M.ラベル/ヴァイオリンとピアノの為のソナタ「遺作」
          F.シューベルト/幻想曲ハ長調
          平 義久/コンヴェルジャンス3
          H.W.エルンスト/練習曲第6番「庭の千草」
          S.サンサーンス、E.イザイ/ワルツ形式の練習曲作品52の6に基づく奇想曲

      入場料:3,500円(全席自由)


      数年前にバロックザールでの高木和弘ヴァイオリンリサイタルの会場録音のテープを聴いたとき、「うん? こいつは一味違うぞ」と思った。この冬に大阪でリサイタルの予定があることを知って行ってみようと心積もりをしていたら、六稜WEBの取材班として行ってくれとのこと。前々日にその旨、了解を取り、菅(69期)、石倉(84期)と3名でリハーサルから押しかけた。

      音の印象を言葉で表すのは難しい。単語を並べれば並べるほどその核心から離れていく。敢えて一言だけ使うとすれば CLAIR(クレール=仏語で明晰と訳される)だが、これは高木和弘本人の印象でもあり、おそらくは彼の持つ音楽性でもあり、彼が指向する音楽であり、そして彼の楽器から出てくる音色でもある。フランスで修業したからそうなったのか、いやむしろ彼の求める音楽がフランスという地を選んだのではなかろうか。本人に聞いてみたいところだ。

      現在、名人大家とされるヴァイオリニストや各地のコンクールで上位入賞して話題になる多くの新人ヴァイオリニストたちの大半がロシア流というかドイツ流というか、重厚な響きと太い音色、荒っぽいといえるほどの激しいボウイングでもって大胆な解釈をした演奏スタイル(これはこれで非常に魅力的なのだが)をする中で、今日のような CLAIR な音楽を聴くとほっとして嬉しくなってしまう。

      プログラムのどの曲も十分に満足のいく出来上がりだった。評論家風に理想の音楽と比べての文句や、私個人の好みの違いからくる注文など付けようとすれば付けられないことはないが、満員の客席の鳴り止まない拍手がそんな気持ちを吹き飛ばしてしまった。彼の音には数多い素晴らしいヴァイオリニスト達のものとも違う気になる色がある。それがはっきりと分かるようになるまで注目し、応援していきたいと思う。

      また、忘れてならないのが伴奏ピアニストの山田武彦。ピアノを弾く人なら彼の上手さ、音楽性の高さに感心されたことと思う。


      多士済々の六稜人の中で音楽好きは意外と多い。聴くばかりでなく、自ら楽器を演奏して楽しんでいる者も数多くいる。母校には古くからオーケストラ部があり、そのまま大学オーケストラ、社会人オーケストラ等と音楽生活を続ける同窓生の数はおそらく500名を下らない。創立120周年記念フェスティバルホールでの「第九」演奏会ステージ上の壮観な風景は六稜人の誇りともいえるのではなかろうか。

      しかしながら他の分野と比べると実際に音楽を生業として活躍している六稜人は極端に少ない。アマチュアや、セミプロとしてならどこの学校の出身者よりも熱心でレベルの高い活動をしているのだが、専門家となると思い浮かぶのは大先輩の大中寅二(26期)を始め作曲家が数名、評論では柴田仁(50期)、関西のフルート界をリードしてきた曽根亮一(64期)、各地のオーケストラ団員が数名、現今では門良一(70期)がモーツアルト室内管弦楽団を指揮して定期的な演奏活動を続けているが、ソリストとなると誰一人名前が出て来ない。

      専門化の進んだ現在、演奏家を目指す人達はうんと若いころからその方面に進み、北野のような進学校にはやって来ないのが普通なのだが、そういう状況の中で高木和弘の存在は貴重であり何か快哉を叫びたくなる。聞くところによれば大学受験に失敗したことで、逆に音楽の道に進む決心を固めたというが、もし普通の大学の普通の学部に入学していればどうなっただろうか。

      いろんな面で厳しい音楽家の生活を思えば、本人にとってはハイレベルのアマチュアでいるほうがよいのかもしれない、しかしそのかわりに我々は一つの《美しいもの》を知らずに過ごすことになっただろう。よくぞ不合格にしてくれたと採点者にお礼を言いたい。



    Last Update : Dec.25,1997