▲応援に駆けつけた同期の皆さん |
六稜トークリレー【第48回】
「情報劣化〜マスメディアの現状が抱える問題点」 〜山田五郎さん@89期
reporter:新比惠(西村)智子@89期
▲中学時代の武田正彦さん
|
山田五郎さん(本名:武田正彦さん)の今回のトークは、出版業界の裏話が満載で、大変楽しく、興味深いものでしたが、中学時代から、高校、海外留学を経て、講談社時代までを知る、いわば幼馴染のような私には、それほど新鮮な驚きはありませんでした。むしろ、「出版業界を憂う」山田五郎さんに、いつも本を読んで何かに悩んでいた昔の武田くんの姿が重なり、懐かしい感慨を覚えました。そこで、トークの内容に関する報告は他の期の方にお任せすることにして、私の知る少年時代や北野時代の武田正彦さんの思い出を中心にご紹介させていただきます。
中学(豊中一中)時代の武田くんは、淀川の河川敷で煙草を吸っていたらしい高校時代とは異なり、良家の坊ちゃん風の、端正で色白の美少年でした。勉強が飛び抜けて出来ることは言うまでもなく、旺文社の詩のコンクールに入選したり、美術の才能も際立っていました。紫一色を背景に、黒い五重塔のシルエットがしっとりと浮かび上がる「京都の雨」と題した中2の彼の絵を鮮明に覚えています。授業中は今と変わらぬ饒舌な口調で何にでも講釈を垂れてしまうので、同級生は勿論のこと、先生方も、彼の早熟過ぎる才能に戸惑っておられたのではないでしょうか。当時の担任の先生にその後お会いしたら、「今、武田の妹(北野92期)を受け持ってるんだが、すごく可愛くて、本当にいい子なんだ……兄貴と違って。」と苦笑しておられました。教科書もまともに持ってこないので、なぜかいつも隣の席だった私は机をくっつけて額を寄せ合う羽目になり、随分迷惑を被りました。
▲手塚治虫氏のスケッチとともに(地階展示室にて)
※当時、美術部員だった武田少年が、 偶然、部室で発見したものだそうだ
|
北野に入学後は文芸部や美術部に所属し、相変わらず懸賞小説に入選したりしていましたが、眼鏡の奥の眼光が鋭くなり、どことなく退廃的で近づき難い雰囲気を漂わせていました。高2の文化祭で彼が主演した映画「ガロア」の、純粋で、真摯で、溢れる才能を持て余し、苦悩する天才数学者の姿は、当時の彼とかなり重なる部分があったように思います。卒業を間近に控えたある日、放課後の教室で話したことがありました。「母親が、(英国駐在中の)父親の後を追っかけて、ジジババと子供3人を残して行っちゃってさ、オレが妹と弟のメシ作ってるんだ。メンチカツとかさァ……」などと、上品な口元に笑みを浮かべて無邪気に話している様子に、意外な一面を見たような気がしました。その後も彼の言葉や振舞いには、さりげない、しかし繊細な優しさや感受性が感じられることがあり、それもあって、武田くんには評論家だけでなく小説家や詩人の才能もあったと今も思っています。
そんなことを思い出しながら参加した今回のトークリレーでしたが、久しぶりに見る武田くんは、遠い人のようでした。遠目に眺めてこっそり帰るつもりが、突然、司会者から花束贈呈を命じられ、思いがけず舞台の上で再会することになりました。トーク終了後に話した彼は、昔のままの武田くんでした。結局、私が今回最も感動したことは、今やマスメディアをリードする山田五郎さんが、繊細で、上品で、思いやりに満ちた昔のままの武田正彦さんだったことでした。今後もさらに幅広い分野でますますご活躍されますよう応援しています。
|