香取由夏ピアノリサイタル reporter:佐々木信明(北野高校音楽科教諭) 去る8月5日、本校109期生 香取由夏さんの日本での初リサイタルが梅田のフェニックスホールにおいて催された。彼女は、北野高校卒業後、京都市立芸術大学に進学、同大学を終了後、ウィーン国立音楽大学演奏家コースピアノ科に入学、本年6月、同コースを首席で終了、大学院への進学を決めた逸材である。 当日は、淀川の花火大会が開催されるとあって、梅田界隈は、普段以上にざわめいていたが、フェニックスホールに到着すると、当然のことながら、別世界のような静かで落ち着いた雰囲気が流れており本当にホッとした。 プログラムは、前半がベートーベン〜橋本国彦〜スクリャービン、後半がシューマンの大作1曲、といった具合に、古典派、ロマン派から近代、そして邦人作曲家(橋本国彦は北野高校出身)作品、と多様性に富むもの。 高校時代の彼女は、どちらかというとベートーベンのように構成的にカッチリとした楽曲の方が自分に向いていると感じていたようであるが、今回のリサイタルでは、そういった面を基盤に持ちながらも多様な表現力が加わってベートーベンは勿論、ロマン派、近代の作品ににおいても実に聴き応えのある演奏を展開していたように思う。 今回の会場となったフェニックスホールが、ピアノのリサイタルに向いたホールであるということを差し引いても、彼女の指から生み出される豊かで強靭な中低音、輪郭のはっきりした美しい高音は、幅広い表現を獲得する上で強力な武器になっていた。 シューマンのクララへの想いが横溢した初期の名作、ソナタ第1番は、私が個人的にもっとも好きなピアノ曲のうちのひとつだったこともあり、特に引き込まれるように聞き入ってしまった。本人曰く、この曲の後半、「頭が真っ白になってしまって冷や汗が出た部分があった」らしいが、ほとんどの人は気がついていないであろう。冷静に切り抜け、この曲の終了後、鳴りやまぬ拍手に応えてアンコールとしてショパンのエチュード2曲を演奏。無事、日本での初リサイタルの幕を閉じた。秋にはまた、ウイーンに戻り勉強を続けることになる訳だが、本当に今後の活躍が楽しみなピアニストである。 余談ではあるが、リサイタルに先立つ7月28日、北野高校音楽室で、本番を想定して、聴衆を入れてのリハーサルが行われ、夏休み中の夕方にもかかわらず、現役生徒や教員約30名が間近で香取さんの演奏を堪能した。 |