六稜ト-クリレ-【第27回】 「ゲノム創薬とテイラーメイド医療の現状〜抗癌剤開発を中心に」 玉沖達也(78期)さん reporter:橋岡龍也(78期) | |
78期卒業の玉沖博士は、永年、製薬会社の協和発酵の研究所で、抗癌剤の研究に従事されてこられ、今回北野の同窓会で、最新の癌治療の現状を、素人にも分るようにできるだけ易しく解説していただいたが、なかなか難しい内容であった。テーマは、「ゲノム創薬と、テーラーメイド医療」という題であった。 玉沖博士によると、近年の分子生物学の発達は、人の遺伝子を全て解読するという所まで来ており、癌に関しては、発癌遺伝子と、その産物である物がどのような物であるか、と言う事までも明らかにされてきているとの事です。このような発癌遺伝子は、さまざまなものが有り、細胞増殖に関係する増殖因子や、そのリセプターであったり、細胞増殖させる情報伝達経路の酵素を活性化させる酵素であったり、さらには、発ガン遺伝子を押さえ込む癌抑制遺伝子の産物であるp53蛋白を働かなくする蛋白であったりといったことが、分ってきたと解説していただいた。 玉沖博士によると、ゲノム創薬というのは、例えばこのような発癌遺伝子の産物であるこれらの物質(蛋白質)を標的にして、これらの物質の働きを阻害することができるようする物質を探し出そうとするものであるとの事である。つまりその様な物質が見つかれば、それは癌治療に使える事を意味するからです。その詳しい内容は時間の関係からか詳しい説明はなかったが、筆者の知る限りでは、X線を使って蛋白質の3次元の立体構造を知ることにより、それを阻害する物質を探す手段にすることと聞いています。 演者の玉沖博士は、このような発癌遺伝子の産物のひとつである蛋白リン酸化酵素(プロテイン キナーゼ)を阻害する物質(スタウロスポリン)を発見するという、大きな功績を残されている。残念ながら、この物質は生体には副作用が強くて薬として実用化されなかったが、ナノグラム単位で効果が有る非常に強力な物質であり、現在の癌研究には欠かすことのできない重要な物質であるとの事である。このような仕事をされた方が、北野高校の卒業生であるということは、北野高校の誇りともいえます。 玉沖博士によると、テーラーメイド医療というのは、薬の働きが個人間で異なっているのが遺伝子レベルで分ってきた事により、個々人に有効な薬剤を選択したり、副作用を軽減するように薬剤量を加減したりすることが、DNAチップを使って出来るようになりつつあるとの事で、それにより個々人に合った最適な医療を提供しょうとするものであるとの事である。このようなことが出来るようになれば、あらかじめこのDNAチップを使って検査をしておけば、抗癌剤などの副作用の強い薬を使うときにとても有効であることは、素人にも納得できるといえます。このようなDNAチップやその他の、癌を早期に発見するための検査法や検査試薬が、治療薬である抗癌剤と同様に、これからの医薬分野で大きな市場を作ってゆくものと思われるという予測をされていました。 以上のような内容を、淡々と話される玉沖博士にはとても感銘をうけ、すばらしい発見をされたことに全員が敬意をはらって、講演会が終了した。 |