是は、いずれもご存知のものでござる。某、芦屋はルナホールへ参るところ、所用あって、いささか遅れ申し候。開演時刻の一時丁度、梅田発新開地ゆき特急に乗車し候ところ、心は逸れども阪急特急の乗り心地いかにも心地よく、あたかもレールの上に薄ききぬ衣の一枚ありて、その上を滑りて行くが如し。わが南海と比ぶるにはなはだその差ありと覚ゆ。いや、何かと思ううち、早や、芦屋に着きて候。
と、こんな具合に車中で室町の男言葉風に文句が浮かんできたのは、やはり阪急電車の乗り心地のよさのおかげでありましょう。(南海ガンバレ!)
前置きはこのくらいにして、行ってまいりました。ルナホールへ。観劇に。『わが恋は南山に終わりぬ』であります。
和田多喜子さん(81期)ナレーターをつとめる、のこと
当日は30分遅れて入場。今回の和田さんはナレーションを担当されるとのこと。事前「稽古不足だし、無理して観に来なくても良いですからね」という仰せでありましたが、なんの。「わたしゃ、どんな役だって見てみたいわ」という一種ファン気分でやってまいりました。
さて、舞台は高麗から倭国へと移った場面。程なくして、暗転の後、和田さん登場。(イヨッ、待ってました!)頭上のライトが灯され、ご本人の姿が陰影を帯びて現れます。うう・・・む。今まで同窓会の催しなどで和田さんの和服姿というのは幾度か見知っていましたが、やはり、これは月並みな言い方ながら、「ばっちり」きまってました。
次に、手にした2つ折の小道具をおもむろに開く。この、「おもむろに・・」の「おもむろさ(?)」加減が、衣装の次に「ばっちり」決まった。単純なその動きが、おだやかに次のシーンの始まりを知らせ、そして、間をおいて、静かな語り口で言葉が発せられる。この「間」も絶妙で、声もよかったなあ。(ん?だれですか?褒めすぎ、だなんていうひとは?)この時、私は彼女に対して、やはり高校時代、だてに演劇部の演出をしていた方でなかったな、とあの絶叫「きこえなああい!」を追想しながらしみじみ思ったのでした。
【今回の要約】キーワードは、「立ち姿」「おもむろ、の、間」「控えめな声のトーン」。この3拍子が揃い踏みして『良かった』のでありました。
和田さん最初の登場でこれらのことを一挙に感じ、その後登場するたびに(今回は前回に比して出番が格段に多かった)一貫してこの印象を持ち続けることが出来、大いに満足いたしました。
さて、舞台はすすみ「玄喜」役の奥田先輩の登場を待ちます。
奥田和夫(58期)さんのこと
後半クライマックス、奥田さん登場。前回の劇にも感じたことですが、役柄もあるのでしょうが、奥田さんの声にはどこか舞台のその場面全体を「テコ入れ」するような響きを感じます。今回は役名「玄喜」が「元気」に相通ずるような、そんな感じ。この劇は高麗側、倭国側それぞれの大将に一人の重鎮が付き従うのですが、どちらの「ワキ」も重要な役でした。「ワキ」の演技の大切な役割を感じることが出来ました。
それにしても、30分遅れたために奥田さんの最初の登場場面を見逃してしまいました。幸いこの日はダブルキャストの2公演。後半の奥田さんの姿を想像しながら遅れてきた分を見直すことに。
休憩時間、舞台衣装、着物袴に着替えた奥田さんにお会いできた。真近でお顔を拝見して思った。「むむ・・う。できてる」メイキャップなどで作らなくてもほぼ出来上がっているお顔だ。という意味。そんな感想が一番に浮かび、その言葉をそのままお伝えした。
思うに、役者の顔は「目」「鼻」「口」できまるな・・と。なーーんとも当たり前の「事実」でありますが、奥田さんの「目鼻口」はそのようなふしぎな感慨を私に与えてくださったのです。
※ 尼崎さんがこのときの写真を撮ってくださいました。(一枚焼き増ししてくださいね。)
ルナホールからの帰り道、奥田さんのお顔のことを考えながら歩いていた。
・・誰かに似ているんだけれど。誰だ?
阪急に乗って思い浮かんだこと、誰かと誰かの印象の合わさったようなお顔のようでもある・・誰と誰?
そこで、思い浮かびました。あの黒澤監督の映画『生きる』の主人公、「志村喬」と主人公を享楽に誘う脇役「伊藤雄之助」を合わせたようなお顔である、と。
【今回の要約】奥田先輩のお顔を「役者顔」とすれば、それは志村喬の「善良」と伊藤雄之助の「悪へ誘うものの悪」をいくらかの割合で混合したような、そんな面立ちであるという結論に至りました。奥田先輩、次回は準主役級の「悪役」の役どころに取り組まれんことを。期待しております!
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