六稜NEWS-040424

    73期有志による教育問題を考える“Project-K”
    第二回セミナー報告

    reporter:久保禎男(73期)

      平成16年4月24日(土)(15:00〜17:30)に六稜会館において、教育問題を考える「PRJ−K」の第2回目の講演者として北野高校の中垣芳隆校長先生に貴重なお話を伺うことが出来ましたのでご報告いたします。総合司会は林 貞三さん、開会の辞は京都大学大学院梶本教授(いずれも73期)にお願いしました。

      「府立高校の現状と課題について」中垣芳隆校長先生

      1.はじめに
      大阪府教育委員会で高等学校を箕面市教育委員会で義務教育諸学校を見てきたので、幅広く意見が述べられると考えています。2年余り北野生と接していますが、北野の生徒は恵まれた環境のもとで育まれています。是非、彼等に北野の良き伝統を引き継いで欲しいものです。

      2.「ゆとり教育」は機能しているか?
      箕面市の教育長時代、学校生活に馴染めない「小学1年生プロブレム」や運動会で親が自分の子供だけにビデオを向ける現象や、かばんを自分で外せない園児の存在を目の当たりにし、過保護現象がゆゆしい状況にあることを感じました。
      文部科学省はいじめや不登校の原因は「受験競争」にあるとし、その結果ゆとり教育を標榜し5日制を実施しました。しかし、高等学校は一様ではなく、現実として様々なグレードがあります。北野高校のような高校での5日制には疑問があります。そこで、全国校長会の場においても文部科学省に”5日制を採るか6日制かは各学校の裁量に任せてほしい”と意見を述べています。これへの当面の対策として、現在、「北野土曜講座」を開設し、多くの生徒が出席しています。
      また、今後、大学の法人化が進み、北野生の希望する大学の門はますます狭まって、5日制ではとうてい要請にこたえられません。北野は今年から4月の創立記念日を授業日とし、1年生にはそのうち1時間校長が北野の歴史を語ることとしました。さらに、夏休みは8月20日から全学年通常授業を行います。先生方も”なんとか生徒の力になりたい!”という意欲が強く、こうした努力が結果として「北野ならではのゆとり」を生み出すと考えています。

      3.小中学校の教育は十分か
      資料に見るように平成5年の調査と比べて数学、理科は明らかに学力低下しています。「勉強は好きか?」の問いにははっきり「嫌い!」という子どもが増加し、「授業が解る子」は小学7割、中学5割、高校3割という調査結果となっています。
      授業内容の理解出来ない子供に合わせて、学習指導要領をやさしくしてきました。新学力観のもと、学習内容を次から次へとカットしてきた”文部省のおもいやり”は必ずしも効を奏しているようには思われません。
      揺り戻しとして、現在、「確かな学力」が標榜されていますが、勉強というものは、元来、努力を伴うものだという当たり前のことに立ち戻る必要があるのではないでしょうか。

      4.不登校、暴力事件について
      年間30日以上欠席の不登校生は増加しています。高校の中退者も2.6%ありこれも増加傾向にあります。公立中学における校内暴力の件数も増加しており、比較的安定している文教地区といわれる所にある中学校でも年度が変われば急変することもあります。
      そのため、私学志向が強まっており、行政機関や教育関係者の子どもで私学に通学している数を調べると興味深い結果が出るのだろうなと思っています。相当な数になるのではないでしょうか。

      5.全人教育はできているか
      北野高校に関してはよき伝統のもと、全人教育が出来ていると確信しています。例えば、定時制の化学物質過敏症の生徒が、全日制の放課後に中庭で授業を受けているのですが、全校集会で彼等の授業風景を北野高校の日常の一部と受け止めるように話したところ、違和感なく受け止めてくれ、まったく問題が生じていません。雪駄をはいて通学してきた行儀の悪い生徒に注意すると、素直に反省します。
      去年の体育大会で地域の自治会長さんから、「こんなに生徒の皆さんが一生懸命取り組む体育大会ができる高校がまだあるのですね。感激しました。」と褒めていただきました。

      6.教育委員会と現場のズレはないか?
      当然ありますが、立場上やむをえない許容範囲内と考えてます。互いの関係は夫婦のようなもので、長年付き合っても100%理解し合えるということはないわけで、それであってもお互いの存在は必要なものですから。

      7.通学学区制度について
      大阪府の学区数は13→5→9と増減がありました。その都度、「よい生徒が来なくなるのでは」とか高校にとっても大きな影響を与えました。今後、規制緩和で東京都のように学区制を取り払う案が知事サイドから出てくるかもしれませんが、そうなると現場の中学の進路指導に大きな混乱が起こると思います。
      いずれにしても、平成19〜20年に今より広い形で結論が出るでしょうが、どのような形になっても北野は安泰と考えますが、相当なダメージを受ける高校も出てくるでしょう。

      8.その他、主なQ&A
      Q1.校長先生のリーダーシップで学校の運営は変わるのでしょうか?
      そのとき、労務問題はネックになりませんか?
      A1.北野については、例えば授業日数を増やすことに見られるごとく、先生方の意識、意欲が極めて高いものあります。これがポイントです。労務問題に関しては高校レベルでは教職員団体との大きな軋轢も無く全体時間管理で十分乗り切れると考えています。
      Q2.先生のお話から北野については問題がないのはよく解りました。しかし、他校や中学校はまったく違っていると言えませんか? A2.教職員の意識の問題、学校のおかれている状況等、高等学校は一色ではありませんから、難しい学校の方が多いでしょうね。
      Q3.われわれ卒業生の知識を活用していただく場つくりは可能でしょうか? A3.北野では総合学習を週一時間設定し、「進路支援」に充当しています。例えば、卒業生のうち、大学院生等に受験技術やその大学のおもしろさ等を伝えてもらう計画があります。北野高校の同窓会は人材の宝庫ですから、ご質問のような機会もあるかもしれません。その時にはご協力をお願いします。
      Q4.最近の若者は医者になるような人材でも忍耐がありませんね。 A4.中国に大阪府の高校生を派遣する事業に二度随行した時に気づいたのですが、日本人は「社会より個人優先」の風潮があるのに対して、中国の重点中学では「国家に対しての貢献」を随分強調されていました。現在の我が国を見ていますと、国家や社会に対する貢献のあり方が、これからの学校教育の大きなテーマになる時代にさしかかっていると考えています。

    Last Update: Jun.13,2004