六稜NEWS-030829
    能と現代劇のコラボレ−ション
    「大原御幸異聞」

    reporter:河渕清子(64期)

    8月29日(夜の部)と30日(昼夜2部)の二日間、梅田のHEP-FIVEホ−ルで上演された。五年前に神戸で初演、今回が二度目の公演である。脚本・演出・監修は土井陽子さん(64期)。

    土井陽子さん(64期)の脚本は、“大原御幸”という能狂言と現代劇を同じ空間で異次元にからめ、初めて能と出会った若い人々にも楽しめるように書かれている。名作からの発想を展開した彼女の才気は素晴らしい。

    能の“大原御幸”(おはらごこう)では、建礼門院があくまでも清らかに美しく哀れをそそることに終始するが、今回の「大原御幸異聞」では舞台の能の進行にからんで、現代語で話す樵(きこり)を登場させた。実はこの樵の正体が、壇ノ浦で海に沈む建礼門院を熊手で助け上げたという源氏の武士「渡辺源五馬允眤(わたなべのげんごむまのじょうむつる)」というのだからおもしろい。建礼門院の美しさに心を奪われ、地位も妻子も捨てて大原の山に樵としてさまよい、つかず離れず報われることなく建礼門院を見守る男である。
    お囃子(笛・小鼓・太鼓)の音とともに醸し出される幽玄の能の世界にうっとりしたり、樵の現代語の独白に共鳴したり、観客も異次元の世界を往き来する妙に感動と満足感を覚えたのではないだろうか。
    (上演時間:約1時間半)

     
    【土井陽子さんのことばから】
    愛という魂の揺らぎは、人生のみずみずしいきらめきだ。樵の存在は、終幕で独りたたずむ建礼門院の美しい面に、過酷に人生を生きた生身の女の哀れをにじませるようだ。現代の凶悪卑劣なスト−カ−とはかけ離れた純愛をまぶして、女としての建礼門院をしっとりと炙り出したつもりである。

    ※ 参考:「大原御幸」
    “平家物語”に素材を求めた大曲で有名狂言の一つ。
    大原の寂光院で、亡き幼い息子安徳天皇、亡夫高倉天皇や亡母二位の尼の菩提を弔う建礼門院(当時29歳)を、舅にあたる後白河法皇が都から訪れ、壇ノ浦での平家一門の滅亡のさまを語り合って帰って行く…という物語。


    Last Update: Sep.18,2003