お堅い銀行マンから一転、上方文化評論家となった福井栄一氏(97期)。上方舞に魅せられ、経済の世界から「美」の虜となった彼が初の自著を出版した。PHP文庫『上方学〜知ってはりますか、上方の歴史とパワー』がそれだ。1月8日の発売以来、本人も驚くほどの売れ行きで、
紀伊国屋梅田店の新刊コーナーを席巻しているという。
今日はその出版記念のパーティ。「10年後の上方文化を担う」であろう若手を中心に、彼を知る80人あまりの応援者が駆けつけた。
開宴の音頭を取ったのは、上方研究の会で事務局長を務める柴田重信氏。氏は某生保会社でメセナ事業を進めるうちに彼と知り合ったという。「みなさん、被害者の会へようこそ。私は30冊買わされましたが、どれを読んでも内容が同じなので暗記してしまいました」上方らしく笑いのウィット一杯に幕を開けた。
司会を務めるは中脇健児さん。学生時代より福井氏と懇意になり、昨年めでたく伊丹ホールに就職を果たしたという。上方文化発信のブレーンの一人である。
パーティに花を添えるアトラクション…最初の出し物は舞踏パフォーマンス。佐藤武紀さんの即興サンプリングBGMに乗って、舞踏家・伊織さんが自らの精神世界を演じてみせた。次を飾ったのがボロン。黒木理恵さんのボーカル&ピアノと加藤高宏さんのギター&ハモニカが会場をアコースティックなサウンドで包みこんだ。
地盤沈下が甚だしいと言われる商都大阪にあって、文化衰退の象徴とも言われる「小劇場」が次々と姿を消している。会場の扇町ミュージアムスクエアもその例に漏れず、昨年末にビルの老朽化に伴い閉館を決めたアートスペースのひとつである。福井氏が自らの出版記念の会場をここに選んだのも、氏のささやかなレジスタンスといえるだろうか。
2時間の宴はあっという間に幕切れとなり、お決まりのサイン本が出席者への手土産として出口で配られた。オリジナルの紙袋には、氏のイニシャル「F.E.」で銀杏葉を象った現代版・花押がさりげなく染め抜かれており、蕾のほころび始めた桃の枝がそれぞれ一本ずつ挿されていた。上方には、まだこんな粋な男が生息しているようだ。