ある男がね『天国と地獄』という随筆を書いたんです。ところがね、読んで面白いのは圧倒的に地獄のほうなんですよね。
『天国と地獄』というバレエを書こうとした人が…これはユーゴスラビアの人なんだけど…僕に話してくれたのもね、
「地獄」の場面はいろいろ工夫ができる。けど「天国」の場面はしようがない、退屈でね。平和でね、何にも不満がなくて。空は青く澄み渡ってね。いつも燦々と陽が輝いて、木は生い茂り、花は咲き、蝶が舞って小鳥がさえずって、食べたいものは食べられて、寝たい時は寝て。
「極楽だ」って言うけど、そんなものは面白くないんだ。退屈で退屈で。
だから「演るんならやっぱり地獄だ」と言うんですね。
これも、笑い話なんだけど。
閻魔大王に「お前は地獄に行くか極楽に行くか」と聞かれた時はね、よくよく考えてみないとイカン。極楽なんか行ったら退屈するだろう。だけど、地獄に行ったらひどい目に遭うし。まぁ「昔はこうだったねえ」って話をする相手というのは、みんな悪ガキで大体地獄へ行っとるから…やっぱり地獄へ行った方がいいのかな、ってね(笑)。
こんな話で良かったンですかね。
後はキミ…うまく編集してくださいよ。
※中江大使、長時間ありがとうございました。
なお、この続きは氏の著作『らしくない大使のお話』読売新聞社刊(1993)に詳しく書かれています。ご一読ください。(編)