笹部桜考(1)笹部桜とは

小林一郎
(78期)

    校舎改築、同窓会館新築に際して処分されてしまう植栽の中で、移植して保存しようとするものに正門横の「笹部桜」があります。この桜は笹部新太郎(17 期・1887~1978)と久野友博(54期・1922~1995)という六稜の二代に亘る桜守の手を経て母校に花を咲かせているものです。
    工事に伴って処分されてしまうのを何とか助けられないものかと関係者の間から声があがりました。六稜に関係深いからとか、珍しい品種だからというだけでな く、人間の寿命を超える植物との付き合い方の一例として、他の処分されてしまう多くの植栽を代表する意味合いも込めて、移植保存すべきだという考えからで した。幸い同窓会からの要望は学校、大阪府側に受け入れられ、予算もついて現在は工事の進み具合を見守っている状態ですが、これで終わった訳ではありませ ん。移植後の管理をどうするか、20年後、50年後、新校舎が古びて再び建て替えの時期になっても、この笹部桜に美しい花が咲いているようにするには、両 先輩の情熱や生き方を後に続く六稜生に次々と伝え継いで行かねばなりません。伝統ある六稜の伝統のシンボルの一つとして、この桜ほど相応しいものはないと 思われます。

    ササベザクラ
    Prunus leveilleana Koehne cv. sasabe-zakura, Hayashi cv.nov.カスミザクラとオオシマザクラ系との交配種。直立性落葉高木。盃状。樹皮は灰褐黒色。小枝は赤褐色または灰褐色で光沢有り。4月中旬、若葉と同時かやや早 く2~3個の花が散形花序または散房花序に開花。つぼみは紅色。花は淡紅色。散り際には花弁の下が赤くなる血脈ができる。花径3.3~3.6cmの中輪。 花弁数5~8。大型の旗弁が3~5個つく。幼木の間は新芽が目立つが成木になると見事な花付きになり、山桜の伝統を伝える。兵庫県指定天然記念物。

    ※連載にあたって
    「桜の木の下には死体が……」と書いたのも同じく六稜生の梶井基次郎(32期)ですが、「花は桜木、人は武士」と言われるように、「桜」という木には必ず 「人」が関わっています。全国各地に在る名桜、巨木にもそれぞれに興味深い物語がありますが、「笹部桜」をめぐっても沢山のドラマがあり、それは笹部氏、 久野氏が亡くなられた今も新しい広がりを持って展開し、続いています。それらをこのシリーズで少しづつ紹介していきたいと思います。連載にあたっては下記 の資料を参考にしました。一般に入手しにくいものが多いので、引用部分を多くしました。事情通の方からは単なる引き写しに過ぎないとお叱りを受けるかも知 れませんがどうかご容赦の程を。生前の笹部氏や久野氏を知る六稜の先輩方数人にも別に一章を設けて寄稿をお願いしてあります。また、78期のWebに掲載しております「六稜78期桜の会『笹部桜を顕彰する会 (仮称)』活動中間報告」をご覧いただければ、笹部桜移植保存のきっかけとなった経緯が記されています。

    ※参考資料
    笹部新太郎『櫻男行状』/双流社
    水上 勉『櫻守』/新潮社
    水上 勉『在所の桜』/立風書房
    木村清弘「桜はおれの命だ」『桜博士笹部新太郎の遺した物』/自家出版
    中村儀朋「さくら道」/風媒社
    『白鹿記念酒造博物館特別展プログラム』
    白洲正子「桜男訪問記」『太陽』(1968.4)/平凡社
    『六稜会報』No.20

Last Update : May.23,1999

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